について述べませう。
 それは、一つは日本人の自然観であり、もう一つは、死生観であります。

 むづかしい解釈はこゝではしますまい。とにかく、自然観とは、「自然」といふものを日本人は元来どういふ風に考へてゐるかといふことであります。
 一言にして云へば、われわれは、西洋人などと違ひ、自然と人間とを対立させず、人間を自然の一部と見做してゐるのであります。
 従つて、われわれが自然を見る眼は、常にわれわれを生んだもの、われわれを育てるもの、そして、やがてはわれわれもその懐に帰るものといふ風に、無限の親しみと感謝とをさへ籠めた眼であります。自然を人の力によつて征服するといふやうな考へ方は、もともと日本にはなかつた考へ方で、それよりも自然の威力は、神の意志として、文字通り不可抗力と見做し、天命としてこれを受け容れるほかはありませんでした。
 従つて、いはゆる天変地異も、日本人にとつては自然を畏れこそすれ、憎む理由とはならず、四季の鮮かな変化は何ものにも代へ難い自然の恩恵なのであります。
 一般に穏かとは云ひ難い日本の風土の激しさは、忍耐をもつて甘んじてこれを受け容れ、自然の暴威と称せられる年々
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