分で認めてゐることになりはしますまいか。会つて礼を述べるだけでは、なんだか物足りないので、二十円の商品切手を添へて差出すのか、商品切手の方にお礼の意味をふくめ、それに口上を添へるのか、いづれにしても、かういふ真似は、人間の心と心との直接の交流を甚だ軽く考へたやり方で、如何に当節の日本人が、言葉と云へば紋切型をいでず、挨拶と云へば月並に堕し、真情を吐露する熱意と率直さとを失つて、遂に自他ともに、心を物に托する安易な道を択ばないわけにいかなくなつてゐるか、といふことがわかるのであります。

 かういふ風に見ていきますと、日本文化の特質は、特質としての強味と魅力とを発揮してゐる面と、その特質が精神を失つて形式的なものとなり、或は、その形式が別の不純な動機によつて病弊と化してゐる面とがあり、われわれはよくこれを識別して、真の日本文化の特質を活かし、これを健全な姿に建て直すことを心掛けなければなりません。

[#7字下げ]一〇[#「一〇」は中見出し]

 そこで、今度は、日本文化の特質として、今日われわれが深く自らを省み、また、それによつて、未来の運命を切り拓いて行かねばならぬ二つの伝統的な思想
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