善を尽してなほ及ばざるを慣れる精神の欠如だと思ひます。この「間に合せ」主義は、事急を要する問題が次々に起つて来て、それを処理するのに絶えず忙殺されてゐた結果で、眼前の事態にのみ気を取られる余裕のなさを語るものでありますが、それにしても、これが世間普通のことになつて、誰も怪しむものがないといふ風潮は、決してさういふ口実によつて救はれることはできません。
「行き当りばつたり」は概ね「やつつけ仕事」を生み、臨時の処置は、常にいはゆる「バラック」式なものを作りあげ、その場を切りぬけさへすれば、あとはどうにかなるといふ姑息な気持を増長させます。そして、「通用する」といふことは、「まあなんとか間に合ふ」ことであり、「間に合ひ」さへすれば、その物事の真の価値は、専ら第二として、あまり重要とは考へないといふ、極めて安易な態度を自他ともに是認することになるのであります。
国民全体のかういふ生活態度は、国政の運用と相俟つて、日本の現代文化に、ひとつの憂ふべき空隙を生ぜしめたと、私は信じます。
いろいろの事情で、十分なことはできないといふ場合、われわれはすぐに「我慢をする」といふのですが、その「我慢」を
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