ぬと私は常に感じてゐるのですが、これはたゞ、洋食の「まがひ」だといふ不体裁に加へて、日本人の味覚を著しく台なしにする曲者です。こんなものを平気で食つてゐると、ちやんとした日本料理の味がわからなくなるのは請合ひです。洋食にも料理屋風の調理と、家庭風の調理とがあります。公式の献立と略式のそれとがあります。安く食べさせるためには、家庭風の料理を、略式の献立で出せばいゝのです。さういふことをしてゐる洋食屋はどこにもありません。アメリカ風のランチはありますが、こんな寒々とした事務的な食事は、日本人の胃の腑を満足させはしません。さうかと思ふと、きまつた安い値段の定食に、馬鹿々々しい儀式用の献立を摸した皿数をつける。従つてどの皿も満足に食へる皿はないのです。かういふ西洋式の採入れ方は、日本人の恥辱であり、大きな損失です。滑稽で、殺風景で、がさつを極めた現代風俗の一例がこゝにもあるのであります。
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およそ、風俗を乱し、生活を歪め、国民の品位を傷つけ、惹いてはその実力を低下させる最大の原因は、何事によらず、「好い加減なところで間に合せておく」といふ、いはゞ、最
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