払はるべき当然の注意、それがわれわれの生活の能率と健康と品位とに及ぼす影響についての配慮が著しく欠けてゐました。試みに、初めて洋服を着る男なり女なりが、誰にその正しい着方を習ふかといふと、それは誰も教へるものがないといふのがまづ実情であります。見やう見真似で、いゝ加減な着方をする。それをまた嗤ふものもない。身につく道理がありません。和服の着方が少し可笑しければきつとさう云つて注意するものがある筈です。誰よりも母親がまづ手を取つて教へるでせう。それは知識よりも寧ろ習慣によつてであります。さういふ勘が働くやうでなければ、生活の機能といふものは完全にその用を果しません。日本の「洋式」は、まだそこまでわれわれのものとなつてゐないのです。
先達てもある学校で、式の最中、多数の生徒が講堂で脳貧血を起して倒れました。原因は、寒いからと云つて窓を閉めきつてあつたのです。今迄こんなことはなかつたのだがといふ校長の不審さうな顔へ、一人の教師が興味のある報告をもたらしました。それは、今迄は、講堂を使ふ時には、きまつて一人の外人教師が、自分で廻転窓を開けて廻つたものださうです。その外人教師が最近戦争の勃発と
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