であります。此新劇運動も今日まで色々のスローガンを以て起つたものが相踵いで失敗して、全く文字通り苦難の途を辿つて居ります。さうして今日迄の新劇運動を一通り知るには、坪内逍遥と小山内薫の此二人をよく知らなければ解らないのであります。大体小山内氏は元は英吉利文学を専攻した人でありますけれども、主として北欧の芝居、独逸、露西亜の芝居を日本に紹介し、例の仏蘭西の十九世紀末の新劇運動、自由劇場運動に倣つて日本にも自由劇場と云ふ劇壇を拵へました。之は今も生きて居りますが、市川左団次と云ふ俳優と一緒に拵へました。この坪内、小山内両先輩の仕事は色々な障碍で今日跡を残して居りませんけれども、新らしい芝居を作り出さう、現代の日本人の生活が今の舞台の上で見せられるやうな芝居を作り出したいと云ふ要求が、若いゼネレーシヨンの間に燃え上つて居るのであります。今日さう云ふ点に皆さんが気を付けて見て下されば、能狂言或は歌舞伎の世界と違つた一つの演劇世界が日本の現在にあると云ふ事が解り、又さう云ふ世界こそ日本の若いゼネレーシヨンが諸君に見て戴くことを望んでゐる世界だと思ひます。又さう云ふ世界に於てこそ諸君が吾々の仕事に
前へ 次へ
全37ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング