す。それから或る場所を説明します。此場所は斯う云ふ名称であると云ふ説明をします。其の説明が非常に流暢な美文でありまして、之は此歌舞劇の中に於ける一つの雄弁の要素を代表したものであります。日本の演劇に於ける雄弁は西洋の希臘劇以後近代劇に於ける雄弁と似て居て非常に面白いものだと思ひます。今日之をお話することは止めて置きます。更に複雑化して舞台で一人の俳優が文句を云ふと其の次の者が云つて、其次々々と段々に台詞を渡して行くのが渡台詞であります。これで歌舞伎の中で特に見せ場と云ふもの、代表的なものを挙げました。猶ほ少し時間が経つた様でありますけれどもちよつとお話しすれば、歌舞伎の中で廻舞台、花道、迫出《セリダ》し、之は劇場の建築と共に日本固有の演劇形式であります。迫出《セリダ》しと云ふのは舞台の下から上の方にずつと人間を押出す仕組みで、今日の舞台でさう云ふ道具を使ふことは珍らしくありませんが、非常に古い時代に下から舞台を人間と一緒にぐつと持上げると云ふことをやつたのは歌舞伎だけだと思ひます。花道も舞台と見物席と非常に親密にさせる日本演劇の民衆的性格の一つの現れでありまして、斯う云ふ風な歌舞伎の形
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