云ふ風に。斬る方も斬られる方も技術を尽すと云ふのであります。即ちそれがアクロバシイでもあり、同時に舞踊でもあるのであります。之は結局殺されるとか殺すと云ふ場面を軽業化し、同時に踊にするとユーモアが出て来るのであります。もう一つ八番目には六法。非常に大きな太刀を両刀差して、両手を大きく振つて脚で大股に踏張りながら歩いて行く。之は矢張り芝居の或る方面で六法と云ふのをやりますが、見物の視線を一人に集めると云ふことが主になつて居ります。其の歩き方は江戸時代の或る種の人物の最も得意げな歩き方を代表して居るのであります。それはどんな階級かと云ふと、例の侠客が自分の好な女の所に歩いて行く其の歩きつ振を真似したものであります。今日では歌舞伎ではそれは主役の俳優が舞台から花道をずつと引込んで行く時に使はれて居ります。最後につらね。つらねと云ふのは渡台詞或は厄払と云ふ様な物に共通するものがありますが、之は今の六法を踏みながら云ふ台詞でありまして、それはどう云ふ事を云ふかと云ふと主に名乗りに使ふ。自分はどう云ふ素性でどう云ふ人間だと云ふことを、舞台の者に言ふと同時に見物に聴かせるのです。其の名乗りに使ふので
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