て演ると云ふことでありますが、必ずしも無言劇の事ではありませぬ。黙んまりと云ふことは主としておほまかな動き、活人画的、活人画といふのは一寸説明がしにくいですが、本当の人間がある瞬間、画の様な或は彫刻の様な効果を与へることであります。この黙んまりと云ふのは矢張り歌舞伎劇で非常に大事であります。殊に始めて舞台に立つ俳優の出ると云ふ場合には、黙んまりを必ず入れて一種の見物への挨拶として居ります。其時には一座の名優達が新らしく出る俳優の前に出で、暫く見物にとくと見せる様な状態に舞台を作ります。
 其次は荒事、之は先刻の殺場、責場と違ひまして、之は唯非常に力が強いとか、非常に勇気があると云ふ人物を舞台の上に出して、無論殺伐ではありますけれども、非常に豪放な印象を見物に与へます。例へば男が家の縁の下に這入つて家をいきなりうんと持揚げて仕舞う場面とか、或は大きな船をいきなり片手で振り廻すとか、さう云ふ人間業では到底出来ない様な力を其処に見せて、見物に溜飲を下げさせると云ふ様なことであります。或る俳優が或る芝居の中で家を持上げる場面を今迄両手で持上げてゐた。然るに一人の俳優は片手で持上げました。色々な
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