。云ひかへれば静かに動いて居る。それから明るい相、それから暗い相、両方が何時でも面の使ひ方に依つて示される様に研究されて居る。此面の作者、面師は今日迄能の上で非常に重要な技術者として多くの天才がでて居るのであります。ですから能の面は一つの美術品として尊重されるのであります。仮面劇と云つて面を使つてする芝居は随分世界にありますけれども、面が斯う云ふ風な方法に依つて芝居の中で絶対的な地位を占めて居ると云ふ面は外にはない。それから舞台の上の道具でありますが、能の特色は舞台の上に一杯に道具を飾ると云ふ事はしませぬ。所謂舞台装置と云ふものは非常に単純を極めたもので、其の舞台の装置を補ふには何で補ふかと云ふと主役の型、つまり演伎、それから歌の文句でそれを補つて行く。其処はどう云ふ場所であるかと云ふことを見物に連想させる様に、例へば月を示すには其の月の歌で月を表徴する情景を示す。其の主役は其の月を見仰ぐ表情をする。其の月を見る表情と其の詩歌の文句とが渾然と其処に融け合ふ。山の上や森の上に月が煌々と照つて居る情景が実に髣髴と浮んで居ると云ふのが能の特色であります。能に就ては色々申上げたい事がありますが
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