、嫉妬と云ふ心理を取扱ふのです。それから或事件に打突かつて人間が或る覚悟をする。其の決心覚悟と云ふ心理、それから親子の愛憎、もう一つ重要なことは義理の悩み、それから離別の悲しみ、訣れの悲しみ、さう云ふ一つの心理をクライマックスとする劇であります。此能で一番大事なことは面の使ひ方でありまして、其の面がこの能の演劇の中心で重要な地位を占めてゐる。面其のものゝ構造と其の面の使ひ方、先づ能の面と云ふのはどういふ風に造られてゐるかと云ふと、目は何時でも大きく開いて、それから視線と平行に造られて居る。ですから冠つてゐる面の角度を見物の方から変へる毎に、非常に印象的な表情になる。それから唇は閉ぢてもゐなければ開けてもゐない。さう云ふ唇であります。ですからものを言ふ時黙つてゐる時、其の両方に通ずる。詰り何方でも不自然でない様にする。顔面の筋肉は極く必要な部分だけ彫られて細かい皺とか或は凸凹と云ふものは造らない。極く重要な必要の筋肉だけが彫られて居ると云ふことは、それは顔を動かして居る時も、じつと静かにして居る時も、それが両方に通じる様に出来て居る。ですから面の表情と云ふものには何時でも静動の両面がある
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