のがあります。之は勧進帳が代表的のものであります。それから歌舞伎劇の為に書き下された脚本が其他に沢山あります。此歌舞伎劇の為に書き下されたテキストを更に色々な種類に分けることが出来ます。大体それを分けますと三つになりますが、先づ時代もの、お家もの、それから世話ものと三つに分けます、時代ものと云ふのは源平時代のもので之は王朝ものとも言ひます。日本の封建政治が確立する前の時代です。それからお家ものと云ふのは封建時代の所謂大名のお家騒動を取扱つたものであります。言葉は一寸難しい言葉でありますが、之は後で説明致します。其の次は世話もので所謂市井の民衆の生活から取材したもの。封建時代でありますから、所謂町人の生活であります。今日の言葉で云ふと新興ブルジヨアジーの社会の愛慾、それから義理人情の葛藤、一般の市民の生活の中に起るさう云ふ様な事件を取扱つたのが世話もので、一種の社会劇乃至風俗劇と云ふことが出来ます。それから世話ものは更に古いものと新らしいものとに分ける。詰り近松門左衛門を代表とする所の作者、其の時代の世話ものと、それから矢張り歌舞伎の優れた作者で鶴屋南北、それから黙阿弥の世話ものとがあります。面白いことには此世話ものは明治の初年を界としてひとつの変化を示してゐます。明治初年には日本の風俗が非常に変つて来ました。徳川時代には男でも丁髷を結つて居ります。其の丁髷が明治以後に無くなつた、其処で同じ世話ものでも出て来る人物が髷を切つてゐるといふ意味で、ザン切りものと云ふ名前が付て居ります。歌舞伎の本来のものを斯う云ふ風に大体三つに分けますが、今度は歌舞伎全体を二つの様式に分ける事が出来ます。所作事と云ふのは踊を主としたもので、地狂言と云ふのは台詞と仕草に依つて物語りを運んで行く普通のドラマを云ふのであります。之は大体歌舞伎の種類であります。歌舞伎と云つても一つ見れば歌舞伎の見当が付くと云ふものではなくて、歌舞伎の中に斯う云ふ様に色々な種類があるのです。其次に歌舞伎が演ぜらるゝ場合に特にどう云ふ風な所に重点を置いてゐるか、歌舞伎と云ふのは只今申上げました様に、民衆の手に依つて民衆を楽しましめる為に出来たのでありますから、難しい理屈を云つたり、或は非常に深い心理をとらへたやうなものでなくて、ごく普通の人間生活のなかから、印象的などきつい場面、一般の見物が興味をもつ様な事件を中心と
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