のだと、うろたへるやうになる。

       三

 日本をより善くしたいといふ欲望が、祖国愛といふ名で呼ばれるなら、さう呼んでも差支ないではないか。この場合、他の国より善くしたいと希ふのは、人間の美しい弱点だ。それも、結局、「何を善いといふか」の問題になるが、例へば、警察網が完備し、粗製濫造品が世界の市場を脅やかし、外遊客がゲイシヤと人力車に感心するといふやうなことを指すのだとしたら、それはもう、美しい弱点とは云へなくなる。

       四

 その意味で、日本を善くするといふ、その「善く」といふ観念だけは、飽くまでも、世界共通のものにしなければならず、それならば、日本がいくら善くなつても、他の国々は少しも迷惑はしない、云ふところの国際主義と矛盾はしないのである。
 理窟はまあさうだが、一つ困つた問題がある。それは他の国々も、さう理想的に行つてゐないといふこと、日本と略々同じやうな「醜い弱点」をもつてゐるといふことである。林君は魯迅の言葉を引いてゐるが、その気持は、日本人だつてあるのだ。あるけれども、なかなかああ云ひ切るものが、われわれの周囲にはゐなかつた。
 他の国から征服さ
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