情がどうもなりはしない。寧ろ今日の僕は、かかる国土をしみじみ痛ましく思ひ、その国土に於いて、戦ひ、生き、しかも自然を愛して来た民族の相貌を懐しむ心が切である。なんでもないことを、優れてゐるやうに思ひ込み、または思ひ込ませ、それによつて自尊心を撫でまわしてゐるやり方は、笑止千万であり、愚劣の骨頂である。
それと同時に、日本の悪いところを、さも手柄顔に取りたてて、これだから日本は嫌ひだといふのも少し早すぎる。さういふ自分にも、その悪いところがあるのを忘れてゐさうだからである。それから、人間ならどこの国の人間でも有つてゐる弱点のやうなものと、日本人のみが特に、その長所と共に有つてゐる弱点とを区別して、その各々に対する批判と対策を誤らぬやうにせねばならぬと思ふ。しかし、日本を愛するといふ気持は、その美点と欠点とを併せた何物かに対する親しみの感情であるにもせよ、好きになつてはいかぬもの、好きでなくてはならぬものがだんだんはつきりして来ると、われわれの日本は、現在、甚だ魅力に乏しい国であるといふことに気がつき、自分は日本を愛するとは云ひきれぬやうな気がし、さて、こんなことでは困る、どうしたらいい
前へ
次へ
全14ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング