英吉利を愛する愛し方のなかには、日本人にはないものがある。自惚れでなく、まつたく、惚れ込んでゐるところがある。伝統が生きた力になつてゐる強味である。が、そのために、当代の復古主義を歓迎する気は毫もない。そんな運動は、どこの国でも度々繰り返され、それ自身なんの役にも立つてをらぬ。要するに、文芸復興《ルネツサンス》が早く来たお蔭である。日本には、やつと、今年来た。
最も心を寒くするものは、不真面目な大学生の氾濫である。不真面目は勉強をせぬとか、カフエエに入りびたるとかいふことばかりでない。なにはともあれ、秩序の何ものであるかを弁へぬことだ。学生生活でその訓練を怠るところから、日本国民の野蛮性が上下を風靡するのである。自由によつて秩序を生み出す能力は、大学に於いてのみ養はれることを一日も早く彼等に知らしめたい。
官尊民卑の思想についていろいろの人が云ひ出した。これはわが国の社会的弊風であつて、それを弊風と気づき、批難攻撃するもののうちに、なほ、官尊民卑的気質を反映してゐる場合が多いのはどうしたわけか。「官」のなすところ、悉くこれに反対するといふのは、もつと文化の一般水準が高まつた時に
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