こそ、意義のある(或は威勢の好い)ことである。現在日本のやうに、芸術も科学も、更に文学でさへも、アカデミスムの恩恵によつて近代的洗礼を受けた事実を目の前にして、アカデミスムの否定に急なるは甚だ偏狭で、幼稚な考へ方である。現代日本の選ばれた人々は、もう暫く辛抱して「官」を利用し、誘導し、為すべきを為さしむべきである。アカデミスムに対する恐怖は、期待の大き過ぎるところから来るので、これこそ官尊民卑の思想である。アカデミスムはある時代の役割を果せばいいのである。アカデミスムの樹立以前に、アンデパンダンの発展を望むが如きは、文化の推移の法則を無視したものである。「官」は「民」のために、「民」によつて存在するといふ確乎たる事実を、官吏はつひ忘れたがるものであり、この職業的関節不随の症状を、さう絶望的に考へなくてもいい。なにをやり出すかわからんのは誠に困つたものだが、なんにもさせずにやるかやるかと待つてゐるより、まあなんでも註文をつけてやらせてみた方がいいのである。きつと悪いことをするだらうといふ猜疑心が、これも無理とは云はぬがちつと強すぎて、どうせさう思はれてゐるならと、不貞な夫のやうな考へを起
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