なもの、それが最も客観的な角度から捉へられてゐることは、たしかに、作者の文学的素質から来たものであることを保証し得るのである。
この作品は、要するに、未完成品であると同時に、いろいろなものを約束してゐる点で注意すべき作品であるが、今度、これを築地座で上演するに当つて、作者と協議の上、若干筆を入れてもらつた。稽古中、様々な問題が作者の前に提出され、珍らしく波瀾に富んだ演出であつた。
私は非常に忙しかつたのと、信頼すべき協力者阿部正雄君を得たので、稽古の殆ど大部分は、阿部君の努力に期待した。
二ヶ月に近い稽古は、有意義に行はれた。演出者の目標に舞台を近づけることの困難は、一般に俳優がその責任を負ふべきものとされてゐるが、阿部君の演出振り――寧ろ俳優の指導振りは、正に、自分が全責任を負ふかの如き概を示してゐる。同君の熱意は、文字通り舞台を燃え立たせ、俳優諸君もよくこれに堪へた。人事を尽したといふべきである。
序に装置のことを一言すれば、元来「新劇」の舞台は、「新劇的装置」を必要とする筈なのに、これまでは、専門装置家の好意に甘へて、職業舞台の「贅沢な装置」をそのまま採用してゐる傾きがあ
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