方も心得たもの、そこはどちらも商売で、その場限りの愛嬌といふことになるのでせう。
「作品を批評して作家の人物評に及ぶことは、わが大日本帝国の文壇に於ては、ちつともヘンではないのである」と、大に見得を切つた批評家がある。
誰も作家の人物評をしてはならぬと云つた覚えはない。
憎んだり軽蔑したりしてゐたいなら、その作家が、自分には興味の有つてない、或は興味はもてゝも不満がある作品を発表したくらゐで、何もわざ/\、傍若無人な評言を加へる必要はあるまい。人物評もいゝが、立ち入り過ぎた「人格論」などは慎んだ方がいゝと云つたまでゞある。作品をさういふ立場からのみ見ようとする傾向を僕は好まないと云つたゞけである。
作品を批評して作家の人物評に及ぶことは必ずしも「ヘン」ではない。人物評のし方によると「ヘン」になるのである。
「作品は面白いが作者の人物がどうも頼りない」といふくらゐなことは、僕の趣味には合はないけれど、まあそれほど咎め立てをしなくてもいゝだらう。それよりも或る批評家が或る作家の作品を褒めたのに対して「かういふ作品に感心するのは幼稚な気がする」といふやうな言葉は、一刀の下に両者を重ね
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