著作権の精神的擁護
岸田國士

 誰かの小説にあつたやうに思ふが、ある画家がこれも画家である友人の才能をねたみ、その作品が後世に伝へられることを妨げるため、その友人の作品を全部価格に頓着なく買収して、悉くこれを破棄するといつた話――私は、この話が如何にも作り事らしいのでこれをそのまゝ実際問題の例にはしたくないのだが、それと似た話で――ある女優が若い画家に自分の肖像をかいてもらつたが、どうも気に入らない。そこで金を払つてその画を受けとり、之を焼き棄てゝしまつたといふ事実がある。

 今度は私が実際に遭遇した経験であるが、ある原稿をある書店に売渡したが、その書店はその原稿を活字にする前に紛失してしまつた。(その後、その書店は火災にあつたから、その時焼失したとすれば、不可抗力だから問題は別であるが)処で、その書店は、既に原稿料を払つて、著作権の譲渡を受けてゐるのであるから、紛失しやうが、どうしやうがそれは自分の損失にこそなれ、著者に取つては何等損害にはならぬと考へてをれば大間違ひである。(著者は原稿を書店に売渡す前に手もとに「原稿の控へ」を保存して置くべきであつたといふ非難を受ければそれまで
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