ゝあるが)

 もう一つ――今度は脚本の上演についてゞあるが、法律は単に作者の物質的利益を擁護してゐるだけで、従つて、一般興行者も上演料さへ払へばといふ考へがあり殊に、所謂研究的演出の名の下に、上演料免除を当然の権利と心得てゐる半素人劇団などが、最も作者の立場を無視し、その意図に反する舞台を公開し、何等恥る色もないといふ有様である。
 今更、旧いことをかつぎ出すのは当事者には御迷惑かも知れないが、例の帝国劇場で山本有三氏の作を無断改作して上演した事件の如き、また、自分のことをいふなら先日、或人よりの通知によれば、日本映画俳優学校とかいふ処の研究劇試演に拙作『軌道』を無断上演し、しかもプログラムには作者名を隠匿発表した如き、自作の芸術的冒涜さへ監視できない立場にある作者は実にみじめである。

 つまり、これは、甲の描いた絵を、乙が勝手に直し、原作とは似てもつかないものにし、それを甲の作だといつて人に見せるやうなものである。こんなことを、単に徳義上の問題であるから、他に制裁の法がないといつて片づけてしまふことが出来やうか。
 勿論、社会は不合理なことでみたされてゐる。正しい主張が必ずしも通
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