用してはゐない。法律で保護してゐるらしい婦人の貞操さへも、公然と蹂躙され勝ちである。芸術家の著作権にしても、物質的に相当の擁護を受ければ、それで満足しなければならぬかも知れぬが、或る場合には別に述べたやうに、物質問題を離れて、芸術家が最も忍ぶべからざる精神的損害を被つてゐる事実を、この際世間で少し認めてほしいと思ふ。
 例へば、こんなことも法律できめられないものか――法律できめる性質のものでないといふなら、文芸家協会劇作家部の力で何とかならないものだらうか。それは、劇場が或作者の脚本を上演する場合、たとひ開演の予定日に近づいても、作者が稽古不十分と認めた場合は、開演を延期させることができるやうにすることである。この法律(或は劇作家協会の規約だつたかもわからない)はフランスにはある。一度上演を許したが最後どんな演出の仕方をされても黙つてゐなければならないとすれば、実に不安である。
 かういふ問題を数へ上げたらそれこそいくらもあるだらうが、素人考へは片手落になる惧れがある。専門家の一考を煩はしたい。

 今度、文芸家協会は、「著作権法改正法律案」を作製し、今議会に提出することになつたのであ
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