中村・阪中二君のこと
岸田國士

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)焦《ぢ》れつたい

〔〕:アクセント分解された欧文をかこむ
(例)〔C'est dro^le !〕
アクセント分解についての詳細は下記URLを参照してください
http://aozora.gr.jp/accent_separation.html
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 中村正常君は戯曲家として世間の一部に名前を知られてゐる人である。僕は同君の作品を殆どみな読んだが、その世界の狭さには一寸驚いた。狭いだけならそんなに驚かないが、その狭い世界をはつきり掴んでゐるのに驚いた。どの作品も、悉く「ある青年がある少女を愛してゐるが、その少女は別に許婚なり恋人なりがあり、その青年をそばへ寄せつけておきながら、その青年の悩みを募らせることしか考へず、青年も亦恋の勝利者たることは一向夢みないで、だが、その少女が時々自分の方を振り向いてくれるといふ不幸な幸福のために、あらゆることを忘れてしまふ」物語である。
 この焦《ぢ》れつたい物語は、中村君一流の甘つたれた調子で諄々と語られるのであるが、それを上の空で聞いてゐると、時々、
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