端役
岸田國士
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)運動《ムウヴメント》
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端役をすら、一生懸命に演ずる俳優は頼母しい俳優だ。それは、端役しか勤まらない俳優であつてもいゝ。彼は主役に選ばれる幸運に繞り合はずに、その生涯を終ることがあつても、彼は、その生涯を通じて、一座の「必要な人物」であつたことに何の変りもない。端役しか勤めないといふ理由で、その俳優を軽蔑するものがあつたらそのものこそ、芝居を心得ぬものである。
私たちは、芸術の道に於て、一つの端役を演じることで満足しよう。芸術家の争ひは、動もすれば、「役の奪ひ合ひ」である。自ら、「主流」に立たうとする心事の、醜き表はれである。
ゲーテ、イプセン、ドストイエフスキイなどの演じた役割を、諸君も亦演じて見たいのか。諸君はまた、バルザツクを、チエエホフを、バアナアド・シヨオを目標としてゐるのか。それならそれでいゝ。私たちは、諸君の知らない、名前さへもない、一人の遊吟詩人の役に心を惹かれてゐる。
瞬きを一つする役である。
炬火をかゝげる役である。
或は、それこそ、「馬の脚」である。
私たちは、
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