百二十四年の夏だ……女房危篤の知らせで……。
神谷 実は、話といふのは、ほかでもないがね……。(時計を見る)
一寿 え?
神谷 お嬢さん方はまだお勤めか……。何時頃だい、退けるのは?
一寿 上の奴は、今日は夜学へ出る筈だ。下の奴はもうぢきに帰つて来る。
神谷 夜学にまで引つ張り出されるのか?
一寿 自分で志願したんださうだから、世話はないさ。なんでも、その方は無給でやつてるらしい。
[#ここから5字下げ]
間。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
神谷 君も長男を亡くしたとなると悦子嬢には養子だね。
一寿 オー・ノン・メルシイ。
神谷 さうか、我党の士だな。うん、時にその話だがね、愛子さんの方を先に片づけるつていふのはまづいかなあ?
一寿 ああ、愛子つて云へば、あの節はいろいろどうも……。当人も非常に感謝してるよ。近頃の娘は働くことを自慢にしとるやうだ。レコード会社とは、それにしても陽気でいい。どんなもんだらう。うまく勤まつてるかな。
神谷 大丈夫さ。社長の木崎が馬鹿に力瘤を入れてるから。なかなかシヤキシヤキしてるつていふ話
前へ
次へ
全70ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング