うに支度をしといてくれ。なに、仰々しいことはいらん。うちうちの客だ。今日は突然、電話で病院の方へやつて来るつていふから、そんなら、家《うち》へ寄れつて云つてやつたんだ。こつちからはよく訪ねるくせに、向ふからついぞ来たことのない男さ。おや、あの娘《こ》は何処へ行つた？ もう帰したのか？ 何ぞもたしてやるんだつたのに……。おい、上から部屋着をもつて来いよ。ああ、疲れた。トレ・フアチゲだ。（巻煙草に火をつける）
［＃ここから５字下げ］
やがて、らくが派手なガウンを持つて来る。一寿は、ワイシヤツの上にそれを着て、右手をらくの肩にかけ、頬に軽く接吻をするが、女は無表情のままそれを受けたきりで、そつとからだを引く。
［＃ここで字下げ終わり］
［＃ここから改行天付き、折り返して１字下げ］
らく （相手の耳が遠いのに慣れてゐるらしく）お茶は苦い方にいたしませうか？
一寿 ああ、うんと濃く出して……。それから、外套のカクシに夕刊がある。
らく 只今……。
［＃ここから５字下げ］
らくの後姿を見送りながら、煙草の煙を長く吐き出して、民謡風の曲を低く口吟む。らくの持つて来た夕刊を受け取り、読みは
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