れど、あそこにゐると、贅沢がしたくなくなるので、それが何よりですわ。自分の生活に、慾望を起さないといふ境遇は、外に考へられませんもの。毎日、貧乏な子供の家庭を訪ねて廻るのも、驕つた気持でするのとはまた別ですからね。こつちの懐をいためない程度で、さういふことをする慈善家たちと違つて、あたしは、有りつたけのものをみんな、洗ひざらひ放り出すんですの。一銭のお金でも、自分のためよりは、餓ゑてゐる人達のために使ふつていふのが、むづかしい理窟はぬきにして、今のあたしにとつて、生き甲斐みたいなもんですわ。
田所 生れつきですか?
悦子 どうせ気まぐれなんだから……。子供のころの、なんとなく薄暗い生活が、かういふ人間を作つたんでせう。やつぱり、お弁当のおかずで卑下をした記憶が、どうしても抜けきらないからよ。
田所 初郎君からもよくそんなことを聞かされましたよ。お父さんのお留守中でせう。でも、あなた方御|同胞《きやうだい》三人は、性格的に、まるで極端と極端のやうですね。
悦子 兄は暢気でしたね。
田所 暢気つていふのか、とぼけてるつていふのか、平気で思ひ切つたことをやりましたよ。これは内証だけ
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