日頃の不養生が祟つたんだね。酒はあまりやらんやうだつたが、あの通り、どか食ひ[#「どか食ひ」に傍点]をしよるんでね。
田所  いや、初郎君なんか、まだ神妙な方ですよ。去年の夏、一緒に伺つた岡田なんて奴は……。

[#ここから5字下げ]
そこへ悦子が現はれる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
悦子  愛子はなんだか気分がわるいんで、失礼するつて申してますわ。少し風邪気味らしいんですの。
田所  (ぢつと悦子の顔を見つめ)ちよつと顔だけ見せるつてわけに行きませんか。
一寿  今朝、食事の時は起きて来よつたぢやないか。
悦子  起きてはゐるんですよ。でも変な顔してお目にかかるのいやなんでせう。さうさう、岡田さんはどうしていらしつて?
田所  相変らずですよ。今もお話したんですが、奴さん、この夏お嫁さんを貰ひましてね……。
悦子  あら……。
田所  それで可笑しいんです。上陸するたびに、まあ家へ帰るのはいいとして、船へ戻つて来ると、きまつて腹をこはしてるんです。なんでも、いきなり汁粉をこさへさせて、そいつを朝昼晩と食ふらしいんですな。
悦子  まさか
前へ 次へ
全70ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング