……。
田所  船乗りなんて、みんな子供みたいなもんですよ。
悦子  それでゐて、何時かは、麦酒をあんなに滅茶にお飲みになつて……。
田所  あれは初郎君がわるいんだ。先生は人をおだてる名人でしてね、煽動家ですよ。うちの船長がその手に乗つて、たうとう黒ん坊の女と寝たつて話……あ、いけねえ……。
一寿  何とね?
悦子  いやねえ、黒ん坊の女とですつて……。
一寿  ああ、君がかね。
田所  いや、僕の話ぢやないんです。ああ、もうよさう。どうもたまに陸へ上ると、頭の調子が狂つて来やがる。
一寿  ああ、君、なんか特別な話があるんだつたね。こいつがゐちや具合がわるいか。
悦子  あたしはもう引込むわよ。明日の準備もありますし……では、ごゆつくり……。

[#ここから5字下げ]
悦子が奥へはいると、両人はしばらく、黙つて煙草を吸つてゐる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
田所  どうも、少し、切り出しにくいんで……。
一寿  さあ、遠慮なく云ひ給へ。但し、僕の力に及ぶことかどうか……。
田所  それが問題なんですが、ぢや、はつきり云ひます。実は、愛子
前へ 次へ
全70ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング