の女《ひと》も、半生は不仕合せだつた。わしも弱かつた。これも縁だらう。黙つて見逃しておくれ……。

[#ここから5字下げ]
らくと悦子とは、云ひ合はしたやうに顔を伏せる。愛子は、ひとり、昂然と、父の方を見据ゑてゐる。
父親退場。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
悦子  ぢや、ちよつと、あたしたち出て来ますわ。

[#ここから5字下げ]
娘達退場
らく、室を出ようとする。
娘桃枝、そつと現はれ母親の顔を見る。
[#ここで字下げ終わり]

     二

[#ここから5字下げ]
舞台は前に同じ。
数日後の日曜日――午前十時頃。
一寿と田所理吉(二十九歳)。主客は卓子を挟んで向ひ合つてゐる。田所は、二等運転士の服装、健康な赭顔に絶えず微笑を泛べてゐる。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
田所  あれが香港かハワイあたりだつたら、病院も相当なのがありますし、ことによつたら、あんなことにならずにすんだかも知れません。しかし、丁度、発病の時機もわるかつたんです。
一寿  いろいろ、みなさんにお世話をかけたことだらう。
前へ 次へ
全70ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング