ん、愛ちやん、すばらしいピアノを買ふんですつて……。独逸製よ……。
一寿 そんな金が何処にあつた?
愛子 安い出物があつたの。もち[#「もち」に傍点]、セカンド・ハンドよ。たつた四百円ですもの。
一寿 だから、そんな金を何処から引出したんだ。
愛子 あら、引出すつていへば銀行ぢやないの?
悦子 お父さん、御存じない? 愛ちやんは財産家よ。(妹に眼くばせをして)云つてもいいこと?
愛子 人の貯金のことなんか、どうだつていいわよ。さうさう、ねえ、パパ、このお人形、あたしに頂戴ね。せんから欲しかつたの。(飾棚の和蘭人形を取上げる)
悦子 あら、ずるいわ。
一寿 そいつはなあ……まあいいか。人にやるんぢやないよ。
愛子 (奥に向ひ)ちよつと、おらくさん……小母さん……あたしの部屋の電球とり替へといてくれた?
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奥で、「あ、さう、さう」といふらくの声。
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悦子 球なんか自分で替へなさいよ。
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そのうちに、らくが、電球を持つて現はれる。
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