ん、愛ちやん、すばらしいピアノを買ふんですつて……。独逸製よ……。
一寿  そんな金が何処にあつた?
愛子  安い出物があつたの。もち[#「もち」に傍点]、セカンド・ハンドよ。たつた四百円ですもの。
一寿  だから、そんな金を何処から引出したんだ。
愛子  あら、引出すつていへば銀行ぢやないの?
悦子  お父さん、御存じない? 愛ちやんは財産家よ。(妹に眼くばせをして)云つてもいいこと?
愛子  人の貯金のことなんか、どうだつていいわよ。さうさう、ねえ、パパ、このお人形、あたしに頂戴ね。せんから欲しかつたの。(飾棚の和蘭人形を取上げる)
悦子  あら、ずるいわ。
一寿  そいつはなあ……まあいいか。人にやるんぢやないよ。
愛子  (奥に向ひ)ちよつと、おらくさん……小母さん……あたしの部屋の電球とり替へといてくれた?

[#ここから5字下げ]
奥で、「あ、さう、さう」といふらくの声。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
悦子  球なんか自分で替へなさいよ。

[#ここから5字下げ]
そのうちに、らくが、電球を持つて現はれる。
[#ここで字下げ終わり
前へ 次へ
全70ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング