おや……。
愛子 いいのよ、そんなにびつくりしないだつて……。外で食べるつもりなんだから、どうせ……。
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一寿が妙な咳払ひをする。らく、急いで退場。
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一寿 近頃、洋食といふもんが、まるで口に合はん。お前たちは、洋食洋食と云つて騒ぐが、あんなもん、何処がうまいんだ。
悦子 丁度いいぢやないの、おらくさんはバタの臭ひを嗅ぐと胸がわるくなるつて云つてるから……。
一寿 (悦子に)おい、二階から洋服の上着をもつて来てくれ。いや、わからんかな。わしが行かう。(出で去る)
愛子 さつきの手紙ね、おやぢ、ほんとに見当つかないか知ら?
悦子 あたしはつくけど……。
愛子 後生だから、姉さん、余計な干渉しつこなしよ。
一寿 (帰つて来て、紙幣の束を卓子の上に投げ出し、知らん顔をして、煙草に火をつける)
愛子 (それを全部そのまま自分の方へ引寄せ、悦子に)ぢや、これで、こないだの分、みんな貰つとくわよ。かまはなくつて?
悦子 (笑ひながら)しかたがないわ。またいる時借りるから……。お父さ
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