る。
悦子  それ、なんのためだつたの?
一寿  寝かせつけるためさ。二人とも泣虫でしやうがなかつた。
悦子  お母さんはさういふ時、どうしてらしつたの?
一寿  さあ、なにをしてたか?
愛子  知つてるわ。お里へ帰つてらしつた。
一寿  畜生、聞いたな、その話を。

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間。
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悦子  兄さんが学校のお友達を大勢連れて来て「やい、みんな、欲しいやつに、おれの妹やるぞ」なんて呶鳴つてたの、あれ、幾つぐらゐの時か知ら……。あたしつたら、その前へ呼び出されて、平気で立つてたのよ。……さうね、平気でもなかつたけれど……。子供の時分つて、考へると、こはいわ……。
愛子  さ、しんみりしちやつたら、出掛けませうよ。今夜は忙しいのよ。

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そこへ、らくが、テーブルを片づけに来る。
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らく  おなかがお空きになりましたでせう。
悦子  いいえ、さうでもないわ。御飯の用意まだでせう。あたしたち、もう出掛けるの。
らく 
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