と待つて……。兄さんのことからいろんなこと思ひ出したわ。ああ、なんだか不思議よ。こんなぼうつとした気特にまだなれるのか知ら……。
愛子 いつまでもお若くつて結構ね。
悦子 朝は早いし、夜はねむいし、眼の前には用事ばつかり溜つてるし……。
愛子 遊ぶだけでも忙しいし……。
悦子 さうよ。頭が、前へも後へも働かないつていふ感じね。それが、今晩は……ほんとに久し振りだわ……。嗤はれてもいいから、あたし、少し、しんみりしようつと……。
愛子 これからすんの? よしてよ、後生だから……。
悦子 (父のそばへ行き)ねえ、お父さん、同胞《きやうだい》や親子の間に、何か秘密があるつてことは不幸ぢやない? 秘密つていふと大袈裟だけど、自分だけで苦しまなけりやならないことがあつたら……。
一寿 (眼をつぶつてゐる)どうしてそんなことを云ひ出したんだ。
悦子 どうしてつてことないけど、兄さんのことを、ふつと考へて、親同胞つてもつと近いもんぢやないかつて気がしだしたの。みんなてんでんばらばらでゐすぎたわ。お互に、知らないことが多すぎるわ。うちぢや誰も相談つてことをちつともしないのね。どうして、
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