かうなんでせう。
愛子  お互が一番頼りにならないからよ。世の中の面倒な問題、何が解決してくれると思つて? 一に勇気、二にお金、三に時間よ。名誉心や、同情がなんになるもんですか。
悦子  だからよ。その、勇気もお金も時間もない時の話よ。
愛子  汽車に乗るんぢやないから、時間はたつぷりあるでせう。
悦子  死ぬまで待てばね。
一寿  はてな、初郎の写真は、何処へしまひ込んだつけな……。
悦子  愛ちやん、議論なんか何時だつて出来るから、今日は、三人で、約束しませうよ。お互に、心配なことはなんでも相談し合ふこと、いつさい秘密を作らないこと、お互に気がねなんかしないで注文を出し合ふこと……。
愛子  自分の行為に対し自分が責任をもつつてこと、姉さん、お嫌ひ? 議論ぢやないわよ。ただ訊《き》いとくだけ……。
悦子  今あたしが云つたことは、それと矛盾しないと思ふわ。
一寿  よし。二人の云ふことはわかつた。両方とも正しい。わしが折衷案を出す。
愛子  いいわよ。どうせ守れない約束なんかしたつてしやうがないわ。
悦子  あたし云ひ方が、教師臭いからいけないのね。どう云つたらいいか知ら……。みん
前へ 次へ
全70ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング