なんだか変ね。(悦子の方をみる)
悦子 (小声で)知つてるわよ。
一寿 小生一身上の問題か……。御親父たる貴下の御配慮とは、どういふ筋合のもんかな。
悦子 兄さんの代りにお父さんに心配していただかうつていふのよ。
一寿 それはわかつとるが、何を心配しろといふんだ。
愛子 そんな話聞かない方がいいわ。他人のことまで心配してたらきりがなくつてよ。
一寿 去年の夏と……あのうちの一人だな。顔なんかろくに覚えとらんが……。お前たち一緒に何処かへ出掛けたぢやないか。
悦子 ほら、奥多摩へピクニツクよ。
愛子 …………。
悦子 みんな黒かつたわね。だけど……。
一寿 とにかく、会はんわけに行くまい。お前たちも一緒にどうだ。
悦子 兄さんのことで詳しいお話を聞けるには聞けるけど……。さあ……(愛子の顔を見る)
愛子 あたしはどうでも……。その手紙の調子だと、会つても面白くなささうだわ。
悦子 なんだか固苦しい文章ね。尤も兄さんは「奉り候」よ。候文の方が短くつてすむんですつて……。
愛子 さ、この方はパパにお委せして、あたしたち、そろそろ出掛けませうよ。
悦子 ちよつ
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