へやつて来ますか?
愛子 ああ、あの西洋の方……。ええ、あの方ならちよいちよい……。
神谷 いい青年でせう。わりに上品な……。フランスの貴族ですよ。
愛子 御自分で、それを吹聴してらつしやいますわ。
神谷 吹聴するかなあ。困るんだ、実に、フランス人つてやつは……。
一寿 (得意げに)争はれんもんだ。(悦子に)今日は夜学はないのか?
悦子 代つて貰つたのよ。だつて、この人つたら、どうしても今夜映画見に行くつてきかないんですもの……。
神谷 この次は、わたしがお伴しよう。
悦子 でも今日は、ごゆつくりなすつていただけるんでせう。
一寿 こいつの学校つていふのがね、貧民の子弟が大分来るらしいんだ。もうちつといい学校へ替へて貰へつて云つてるんだけど……。
悦子 いい学校ぢや、こつちが勤まりませんわ。
神谷 気のせゐかも知れんが、かうしてみると、悦子さんは少し疲れておいでのやうだな。子供の相手の仕事は、賑やかなやうで、実は、地味なことこの上なしですね。わたしも中学を出て二年ばかり田舎の小学校へ勤めたことがあります。
一寿 どうだね、姉の方は、君の眼鏡で、適当な候補者はない
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