かね。
悦子 お父さんは何時でもあれね。さういふお話、ここでなさらないでもいいわ。
神谷 ははあ、聞えないや。
一寿 ところで、君、ほんとに急ぐのか? 今用意をさせてるんだがね。
愛子 あたしたち、どうしようか知ら……。
一寿 お前たちは引止めないよ。
神谷 いや、いや。吾輩は、そんなことはしてゐられない。もう約束の時間だ。悦子さん……、この次は是非、愛子さんと一緒に、何処かへ御案内しませう。日曜ならよろしいな。
愛子 (神谷に)あの、呼出しですけれどお電話いただけば……。(さう云ひながら、自分のハンドバツクから名刺を出して、神谷に渡す)
一寿 へえ、そんな名刺こさへたのか。
神谷 可笑しな話だけどね。うちのマダムは、此の頃になつて、女名前の手紙をいちいち見分けるのには閉口しとる。
一寿 君のところへ、そんなものが来るかね。
神谷 お嬢さんたちの前で云ふことだ。良心に誓つて、猥らなもんぢやない。あんたみたいな娘が一人欲しいなんて云ふとつたよ、うちの婆さん……。
[#ここから5字下げ]
丁度そこへ、らくが、一過の手紙を持つて来る。
[#ここで字下げ終わり]
[#
前へ
次へ
全70ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング