ね。吾輩が連れてつて、社で吹き込ませたもんさ。その時、接待係といふのか、君んとこの令嬢が、さあ、用意が出来ましたから、どうかこちらへといふやうなわけでね、よろしくシヤルマントなところを見せてしまつたんだな。それからといふもの、うるさく社へ顔を出すさうだよ。忘れないうちに云つとくが、その青年、年は三十七、日本流に数へても、八だ。名前は、ルネ・ド・ボオシヨア、文字通りのブルジヨア・ジヤンチヨンムで、さつき云ひかけたが、モロツコにどえらい地面と、革の工場をもつてるさうだ。
一寿 なんの?
神谷 革さ、牛や羊の皮……。
一寿 玉の輿かと思つたら、それぢや革の輿か。なるほど、別段腹も立たんね。しかしだ。かう見えて、吾輩も、やつぱり日本人の端くれだな。娘を毛唐の腕に抱かせるのかと思ふと、なんとなく後暗い。当人同士、事を運んだといふなら別だが、君もそこを察してくれ。これで妙なもんだ。娘たちの意志に逆らふまいとすればするほど、父親の見栄といふやうなものが、事毎に自分を臆病にする。一切干渉はせんといふ主義だが、さうなると、もう、してやりたいことも、おつかなびつくり[#「おつかなびつくり」に傍点]伺
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