れだけのデリカシイがあるなら、僕も、強ひて訊くまい。愛子から云はせることにしよう。かうつ[#「かうつ」に傍点]と……では、またといふのもなんだから、君、しばらく、悦子と話でもしてゐてくれ給へ。僕は、ちよつと愛子の様子を見てくるから……。
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一寿が奥へ引込むと、入違ひに悦子が現はれる。
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悦子 (小声で)妹はどうしてああでせう。お目にかかるのが恥かしいのか知ら……。あたくし、お手紙のこと、知つててよ。
田所 ああ、僕の手紙ですか。愛子さんは、ほんとに読まないで破いちまつたんでせうか。兄さんのところへは、さう云つて来てましたよ。どうも、そいつが信じられないんだ。
悦子 あたくしにも、絶対、あなたのことは隠してるんだから、不思議だわ。でも、今奥で話したけれど、あの女《ひと》たしかにどうかしててよ。そりや、気分もわるいにはわるいんでせうけれど、御挨拶ぐらゐできない法ないつて、あたし、さんざん勧めてみたの。駄目ね。変りましたよ、以前と……。冷たいつていふのか、強いつていふのか、あの頃から見ると、女らしいところなんかすつかりなくなつたわ。自分でも、それを努めてるつて風ね。でも、あなたに対する気持には、たしかに、自然でないところがあるわ。詳しい事情はよく知らないけど……。
田所 事情は、大体、今お父さんにお話したんですが、どうも、一方的な説明は、こいつ、しにくくつて……。
悦子 (好奇的に眼を見張り)あら、そんな深い事情がおありになるの? うそでせう。いくらなんでも、たつた二日の間に。そこまで行けるか知ら……?
田所 行つたんだから仕方がないでせう。
悦子 妬いてると思はれちやいやだけど、あの子、あたしなんかより、ずつと大胆だわ……。
田所 あなたには、むろん、第一に親しみを感じますよ。
悦子 (そこにある急須に手を触れてみて)少しおぬるいか知ら。
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間。
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田所 学校の方は、まだお止めになりませんか?
悦子 停年には間がありますもの。
田所 いや、さういふ意味でなく、相変らず、興味をおもちですか?
悦子 職業としてでは、もつと柄に合つた仕事がありさうに思ふんですけ
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