実情に大きな絶望感をもつやうになるものが、全部とは申しませぬが、やゝ多数を占めるのではないかと思ひます。そこでさういふ場合に、非常にいゝ指導者がゐてさういふ少年たちの心のなかの苦悶を拭つてやるか、それともそこに希望を失はないで前途に向つて邁進する強靭な精神を当人がもつてゐればよろしいが、さもなければそこで襲はれた絶望感に依つて人間が非常に功利的になる。そして結局金持にならう、或はたゞ出世をしようといふ風に考へて、何かしら、社会といふものゝ理想から遠いものに対する精神的な復讐でもするやうな気持になる。無論その人間の性情に依つていろいろに違ひますけれども、先づ中等学校を了へる頃、いろいろな書物を読み、或はいろいろな教養を身につけるに従つて、社会に対する批判力が出来、社会が真からも、善からも、美からも非常な隔りがあるといふ現実の様相に対して一層自分たちの心を苦しめ始めます。これが所謂煩悶時代であります。この時に日本といふものゝ値打に就てさういふ青年たちに十分信頼の念を吹き込んで、彼等に希望を与へる、さういふいゝ指導者があればよろしいが、さうでない場合はどうか。その時に一番痛切に教へられるもの
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