いいえ、違ひます。(さうぢやありません)
いいえ、わたしは知りませんよ。なにかのお間違ひでせう。
いいえ、なかなか、それどころの騒ぎぢやないんです。
いいえ、さうぢやないんですつたら。
いいえ、さうに違ひありません。
いいえ、どう致しまして。さう仰しやられると却つて恐縮です。
いいえ、何んでもないんです。
いいえ、断じてさういふことは出来ません。
[#ここで字下げ終わり]
一寸思ひついただけでもこれだけ。ト書や説明がなくつても、これくらゐの区別はできる。あとへかういふ言葉を附け加へる場合もある。附け加へない方が、簡潔で、暗示的で一層韻律的な効果を副へる場合が多い。戯曲を読む時には、この効果に敏感であることが第一。次に、この効果を次の白に伝へて、次の白を更に効果的にする想像力が必要である。
真の劇作家は、かういふニュアンスから無意識的に微妙な心理的韻律を造り出してゐるのである。似而非劇作家は、これを意識的にやつても、それだけの結果を生み得ない。従つて「死んだ会話」になる。
これは、一篇の戯曲を論じる場合に、甚だ些末な問題として取扱はれるかもしれないが、それは、些未の如くにして実際は
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