云つてもしかたがないのである。被治者としての国民は、自分たちの生活を豊富にするやうな政治を望んでゐるのであるけれども、国民の一人一人が、自分で先づ起ち上らなければならないといふ今日の時代に於ては、政治に欠けてゐるものを、国民自らの手で作り出さなければならない。それが唯一の活路である。
文化の面に於ては、幸ひに、物資の欠乏がそれほど影響力をもたないと私は考へる。紙が足りないで本が沢山刷れないと云つても、一冊の本を大勢が読むといふ手もある。フイルムの配給が十分でなく、映画の製作が不便だと云つても、それなら、つまらぬ映画を作らなければそれですみさうである。洋画家はキヤンバスの払底に苦しんでゐるが、これも、ちよつと頭をひねれば、苦境打開の道はないことはない。それよりも、われわれとしては、現代の日本文化が、どんな状態におかれてゐるか、これから先どうなるであらうかといふことを考へると、問題は決してそんなところにはないのである。
それならば、問題はどこにあるかといふと、先づわれわれは今日まで、人間として、また、一国民として、なし得ることをすべてなし得たかといふ反省をしてみることである。
われ
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