ふ気配が感じられるやうになつたのだ。何もかも行き詰つたと思つてゐるところへ、最近ぼつぼつ若々しい演劇風景が眼に映り出した。曰く、新劇団の旗揚げ、新劇雑誌の創刊、新鋭戯曲家の擡頭……。
 新劇団の中で目星いものは、テアトル・コメディイと称する純素人劇団と、友田夫妻を中心とする築地座である。前者は、仏蘭西劇のみを上演目録に選ぶ特殊な存在であるが、これは、二つの見方から、私は興味をつないでゐる。第一は従来の新劇は、どちらかといふと、北欧殊に独逸流の演劇理論と舞台的臭味を基調とするものであつた関係上、仏蘭西の戯曲は、そのままの味で紹介される機会が少く、更に、俳優の側からいつても、仏蘭西風の演劇的伝統を素直に享け容れ得なかつたために、翻訳劇としても、どこか一方に偏した傾向が強く現はれてゐたのである。それをこの劇団が将来、多少とも、未墾の土地へ鍬を入れるといふことは結構なことに違ひない。第二はこれまでの新劇団が好んで西洋の先駆的な或は殊更、文学的価値を標準にした戯曲を選んでゐたのに反して、この劇団は、好んで仏蘭西のブウルヴァアル劇を上演してゐることである。これは、一方からいへば危険なことであるが、
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