以上述べた日本の現状からいへば、必ずしも恐れる必要はないので、これが成功すれば現代通俗劇の新しい誕生だともいへるし、新劇は面白くないものだといふ世間の通念を覆す役にも立つのであつて、これはこれとして、立派に仕事になり得ると思ふ。ただ、肝腎なことは、俳優の慎ましい自己批判である。
次で、築地座であるが、この方は、今のところ、目標が明かでない。多少、日本の創作劇を数多く上演するからといつて、それで、築地小劇場と区別することは出来兼ねる。ただ、創作劇によつて、翻訳劇的マンネリズムから脱しようといふ心がけなら、それを徹底させてもらひたい。そして、一方、対社会的には新進、無名の作家をどしどし紹介して、文字通り、新時代の味方になつてもらひたい。
私は、この機運に乗じて、偶然二人の異色ある新進作家が、相携へて世に出たことを愉快に思ふ。
一人は、改造五月号に「馬」三幕を発表した阪中正夫君、もう一人は、「劇作」四月号に、「二十六番館」三幕を書いてゐる川口一郎君である。
阪中君は既に文壇の一部に識られてをり、その作品も、これまで相当の評価を得てゐたことである。今更めて云はないこととし、川口一郎君に
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