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一、プロレタリア一派。即ち、共産主義を奉ずる青年作家の一群である。この一派は、文学的流派と呼ぶことはできないが、兎に角、文壇的に擡頭しつつある一勢力である。彼等は文学を以て、共産主義宣伝の手段にすぎずとなす点に、特色がある。従つて、戯曲も、一つの思想的傾向に色づけられ、演劇も、芸術である前に「運動」でなければならないと主張する。甚だ簡単明瞭であるから、議論の余地はないのであるが、ただそれだけならいい。彼等は、共産主義的思想を露骨に掲げない作品、ブウルジュワ階級に対する呪咀、怨嗟、罵詈を根柢としない戯曲を「一文の価値」なきものの如く批評し、引いて、さういふ作家を仇敵の如く、人非人の如く取扱ふに至つて、私は、聊かその了見の狭きに驚くのである。
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 凡そ、文学の使命といふものは限られてゐる。それが如何なる思想を含んでゐようと、その思想のために人は文学を愛しはせぬ。まして、その思想に同化されはせぬ。なるほど、トルストイの思想は若干の共鳴者を出しはしたが、それは彼が、優れた芸術家であつたと同時に、偉大な人格を背景としてゐたからである
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