心理の洞察
――政治に求めるもの――
岸田國士

 国民は当面の事態をもはやはつきり知つてゐる。最も大きな苦難が眼の前に迫つてゐることを自覚し、この苦難を切り抜けることが勝利の第一歩であることを、誰に云はれなくても肝に銘じてゐる。敵はやゝ図に乗つてゐるやうだがその弱点もほゞ察せられ、われは今、地の利に於て若干の失ふところはあつたが、敵の恃みとするいはゆる機械力、物量に対抗すべきわが民族の叡知を十分信じ、一人一人はまさに、国の活路を己れの死所として選ぶことを待ち望んでゐるのである。
 国民の眼は悉く惨烈な孤島の戦場に注がれてゐるにもせよ、その耳は、絶えず何を聴かうとしてゐるか? 為政者の声である。責任ある当局の言明である。それは自ら道を迷はざらんがためでもあるが同時にまた、国政の運用が何よりも臣子としての重大関心事たらざるを得ないからである。
 狭い意味の政治、即ち、政府の施策は、その施策の原因たり結果たる万般の事象を含めて、今や国力乃至戦力としての実質と見なさるべきものである。
 軍事並に経済の面はしばらくおき、私がこゝで特に現在の政治に求めるものは、一にも二にも国民心理の把握といふこ
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