とである。
国民の忠誠心のみはたしかに政治の拠りどころとなつてゐるけれども、それは国民の素質であつて、心理ではない。もつともつと「意気揚々として」国民悉くが政治について行けるやうにしてほしいものである。
そのためには、国民の我儘勝手に耳を藉さず、真に、ひそかに為政者に期待するところを、深く、早く見抜いて、そこに政治の高邁なすがたを示さなければならぬ。
嘗て私は政治に文化性を与へよなどと説いたことがある。その意味は、人間の本性に基くおのづからな理想追及のすがたに、無関心であるか、或は無関心を装ふのが為政者の常だつたからである。そして、そのことには、概ね、逆なやうであるが、現実を正視し、これを適確にとらへる勇気と明察とを欠いでゐるのではないかと疑はせるやうな現象が付随する。政治には先づ説得力をと、私は云ひかへよう。
国民の戦意は、今こそ大に燃え立たねばならぬ。敵愾心は敵に向つて燃やすべきであり、味方同士がそれを口にし合つて満足すべきものではない。「敵愾心を振ひ起せ」などと、尤もなやうで無理な註文を繰返す代りに、国民の当然抱いてゐる敵愾心を、あくまでも正当化し、熾烈化する論拠と材料と
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