の作者、真に作家らしき作家がゐるか。待て! われわれは、まだ、自分の手で作り出さなければならぬもの、また作り出し得るもの、自分の畑で実《みの》らすべき種を、悲しい哉、悉く彼等作者に仰いでゐるんだ。人生のほんの表面の意味、人間の平凡な心理、世相の僅かな観察、そして、舞台の、あの狭い舞台のからくり、それさへわれわれはまだ掴んでゐないのだ。――君たちの書くものぐらゐ、われわれにだつて書けるぞ、かう云へなければ、今日、日本の芝居は面白くなりつこはない。その上で、ほんたうの、専門的な、戯曲家らしい戯曲家の出現を待てばいゝのだ。では、始めよう。
女優A′[#「A′」は縦中横]  先生、ちよつと、質問をさせて下さい。
男優A  なんだ。
女優A′[#「A′」は縦中横]  俳優つていふものは、どこまで行つても、自分が自分でないやうな気がいたします。それを思ふと、あたくし、泣きたくなりますの。人に決《き》めてもらつた人物になるんでもなく、人の書いた台詞《せりふ》を云ふんでもない、今日のやうな場合でも、自分が何処へ行くのかわからず、一言《ひとこと》喋舌《しやべ》つた後で、何をしでかすかわからないんですもの
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