がけて飛び込まうとする。
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州太  (無意識に彼女の肩に手をかけ、鋭く)おい、待てツ!

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が、二葉の足は、もう地上を離れてゐる。州太は、彼女の肩に手をかけたまゝこれも、引摺られるやうに崖へ姿を消す。

地平線上の空は、次第に明色を帯び、やがて、高山より見下ろす独特の曙光を反射しつゝ、山頂は、今や、黄褐色の地肌を生々しく現しはじめる。

その時、崖の一端に突き出た熔岩の鉛色の蔭から、二葉の姿が――それは恰も、「自然の意志」が彼女を起らせたかのやうに――ほのぼのと浮び上つて来る。
彼女は、半ば眠つてゐるものゝ如く、ぐつたりと、からだを岩にもたせかけるが、そこで、極めて徐々に両眼を見開く。

それと同時に、遥か向うで、今頂上に辿りつかうとする登山者の一隊が、所謂「御来光」の壮観を前に、高々と、何やらの歌を合唱しはじめる。
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底本:「岸田國士全集5」岩波書店
   1991(平成3)年1月9日発行
底本の親本:「浅間山」白水社
   1932(昭和7)年4月20日発行

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