心持は、むろん、よくわかつてゝよ。(間)それから、この先々、今迄のやうな生活には、もう堪へられないつておつしやることも、なるほど、さうかも知れないつて気がしますわ。しかし、なんにもしないで、生きてだけいらつしやることが、どうしておいやなの? お父さんさへ我慢して下されば、あたしが働いて、お父さんお一人ぐらゐ、楽に養つてあげられるわ。それも、あたしたちに取つて、結構面白い生活だと思ふわ。
州太  わしは、お前に慰めて貰ふ必要はないよ。また、さういふ資格もないわけだ、だつて、お前にも、わし以上の……わしとはまた違つた、なんといふか、心の苦しみがあるだらう。さつきお前は、今それを忘れてゐるなんて云つたが、そんなことで、満足なのか。日が昇ると、山を降りなけれやならんぞ。悲しみは、この下で、あの家で、空から遠いあの地べたの到るところで、お前を待ち受けてゐるんだぞ。お前は、今日、あの青木といふ男に、癒りかゝつてゐる心の古傷を、またあばかれたと云つたね。その傷口が、今度癒りかける時分に、何れまた、誰かゞあばかずには置かないのだ。さうして、次ぎ次ぎと、お前の生涯は、苦しみの連続だ。わしが保証しておくよ
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